「冬の神宮」こと、ポップアスリートカップくら寿司トーナメントの全国ファイナルは、12月6・7日に東京の明治神宮野球場で開催される。出場するのは、前年度優勝枠を含めて14チーム。そこへの道のりは長く、自主対戦方式の都道府県大会に始まり、北海道と沖縄を除く6ブロックでは最終予選(クライマックスシリーズ)まである。当メディアは11月3日、埼玉県であった関東最終予選の最終日を取材。勝敗だけではなく、盛りだくさんの特ダネを6つのトピックスに分けて前後編でお届けしよう。まずは主に「個人」にフィーチャーした前編から。
(写真&文=大久保克哉)
Topic➊
「ほめる」賞をサプライズで
関東代表「2枠」が決まる最終日の朝。8チームが参加しての開会式で、ひと際盛り上がるセレモニーがあった。
都道府県予選を突破したチームにそれぞれ贈られる『ほめたいプレーヤー賞』の発表と表彰だ(=下写真参照)。大会主催のNPO全国学童野球振興協会の野村隼人事務局長は、同賞の狙いや経緯をこう語っている。
「キャプテンやエースや四番バッターは、活躍してMVPとか表彰されることも多いと思います。それはそれで素晴らしいことですが、違う観点から個人賞を設けました。ご提供をいただく、サポーター企業の松下徽章さんは『ほめるを広める』という文化の会社ですので、そういう想いも込めて、より広められればと」
東京・高輪クラブ「ナイスバッティング賞」=杉本悠真(6年)/海老原城一監督(写真㊧)

東京・金森アームズ「スーパーユーティリティ賞」=瀧本翔太(6年)/大貫良道監督(写真㊧)

神奈川・戸塚アイアンボンドズ「必殺仕事人賞」=北川倫太郎(6年)/桑山嗣俊監督(写真㊧)

埼玉・西埼玉少年野球「勝利に導く必要不可欠な選手賞」=横田隆芽(6年) /綿貫康監督(写真㊧)

茨城・豊ナインズ「全力プレー賞」=佐藤結人(6年)/里見浩之監督(写真㊨)

栃木・阿久津スポーツ「女房役で賞」=丸山智暉(6年)/小林勇輝監督(写真㊧)
各チームには主旨も説明した上で、賞の具体名と選出を一任。結果、裏方役が表彰されることも。「全力プレー賞」を贈られた豊ナインズ(茨城)の佐藤結人は、主に三塁コーチとして、この日の勝利にも貢献していた(=下写真)。
野村事務局長はこうも話している。
「この賞は発表までサプライズにしているチームがほとんどで、お子さんが急に表彰されて涙ぐむお母さんもいたり。試合に出られるのは9人ですが、それ以外のところで支えてくれている人もいる。サポートがあればこそ野球ができる、ということも皆さんに感じてもらえたら」

なお、この『ほめたいプレーヤー賞』は、2年前の全国ファイナルトーナメントで新設され、昨年から都道府県予選を突破したチームにまで拡大。二和タイガース(千葉)で「まとめたで賞」の小茂田大成と、吉川ウイングスで「オールラウンダー賞」の大塚淳斗(ともに6年)は、関東最終予選の初日の開会式で表彰されている。
2007年にスタートしたポップアスリートカップは、参加チームもスポンサーの企業や団体も増えるばかりで、今年で第19回。こうしたスペシャルな賞の制定など斬新な取り組みや「冬の神宮」の定着とともに、まだまだ大きな大会になっていくことだろう。
Topic❷
NPBジュニアの勇姿も

巨人Jr.でもプレーする高輪クラブの鴨志田京主将

関東最終予選は、10チームを2つの山に分けてのトーナメント戦を2日間で消化し、それぞれ優勝したチームが神宮での全国ファイナル出場権を得る。8チームで行われた最終日の2日目は、NPBジュニアに選ばれている選手たちの姿もフィールドにあった。
読売ジャイアンツジュニアの鴨志田京(東京・高輪クラブ)と香川幹大(埼玉・西埼玉少年野球)に、東京ヤクルトスワローズジュニアの新井一翔(埼玉・西埼玉少年野球)の3人だ。
年末恒例の一大イベント、NPBジュニアトーナメントに出場する各球団のジュニアチームは、9月前後から本格始動。毎週末にテストマッチや練習を行って本番へ向かうが、地元の所属チームの活動に参戦することもある(※これを原則として認めないジュニアチームも一部にあり)。

巨人Jr.でもプレーする西埼玉少年野球の香川幹大主将

「冬の神宮」をかけた大一番のある日。久しぶりに古巣のユニフォームに袖を通したNPBジュニア3戦士は、それぞれ存在感を発揮した。
投打二刀流で夏の全国大会(全日本学童マクドナルド・トーナメント)にも出場していた、西埼玉の香川主将と新井は、剛速球とパワフルなスイングを披露。高輪で遊撃を守る鴨志田主将は、シートノックからお手本のような守備動作が光り、右打席から鋭いライナーも放った。

ヤクルトJr.でもプレーする西埼玉少年野球の新井一翔

ただし! 必ずしも彼ら3人が特別ではなかった。どのチームも特に6年生は、萎縮することなく堂々と立ち向かう姿もあった。その急先鋒は、西埼玉と初戦で対峙した、二和タイガース(千葉)の一番・遊撃、大部明輝だ。
試合前のシートノックでみせた軽快な身のこなしと堅実な守備は、NPBジュニアにも引けを取らず。1回裏の攻撃では、巨人Jr.の左腕・香川(西埼玉)の快速球を中前へ弾き返した。さらには、けん制とクイック投法をよく見極めて二盗にも成功。

二和タイガースの一番・遊撃、大部明輝

二和は千葉の激戦区・船橋で活動する。「技術をしっかりと教えています」と語る渡辺隆一監督(=下写真)のノックの腕前はピカイチで、大部を筆頭に守備が堅かった。投手陣は打たせて取り、接戦に持ち込んだものの、西埼玉に0対3で敗北。
大部は大粒の涙をこぼしながら「カウントに関係なく甘い球を打ってくるし、同じ6年生でも相手のほうがすごかったです。でもヒットと盗塁は自信になりました」と話した。

また西埼玉のもう1人のNPBジュニア戦士、右本格派の新井から右前へクリーンヒットを放ったのは、阿久津スポーツの四番・湯浅朝陽だ。こちらのチームは昨秋の新人戦で関東準Vという実力派。関東代表決定戦で惜敗(※詳細は後編)したが、遊撃守備でも好プレーをみせた湯浅はこう語っている。
「1対2と、あと一歩だったので悔しいです。でもプロ野球ジュニアに行っている、すごいピッチャーから打てたのは自信になります」

阿久津スポーツの四番・遊撃、湯浅朝陽
Topic❸
大躍進の1年目指揮官も涙
関東予選のひとつ前。東東京の代表を決する一戦で、高輪クラブは越中島ブレーブスを3対2で下していた。
「あの1勝はうれしかったですね」と、海老原城一監督(=下写真)も手放しで喜んだのには理由があった。夏の全日本学童マクドナルド・トーナメント出場をかけた、都大会の1回戦で負けた相手が越中島で、それも1点差だった。4対3で勝利した越中島はその後も勝ち進み、9年ぶり2回目の全国出場を果たしている。

この関東予選の最終日、初戦で先発した6年女子の亘希花(=下写真)は、6月の都大会時よりも遥かに速い球を投げていた。「そうなんです、彼女はその後も見る度に速くなっている感じ。8月に淡路島での全国大会(ミズノドリームカップ)を経験できたことも自信になって、今年の6年生はみんな賢くやれたと思います」(海老原監督)
活動拠点は、コロナ禍に開業したJR山手線「高輪ゲートウェイ駅」にも近い都心の一等地。1969年創立のチームで6年時に主将を務めていた海老原監督は、息子を連れて古巣に復帰し、息子らが卒団後の今年度から新指揮官に。
「ウチの6年生たちは中学受験もあったりしますので、『頭が良くなる野球部』というのを目指してやっています」

野球だけに明け暮れるという親子は、ほとんどいない。それでも新指揮官の1年目で、新人戦も全国予選も都大会に出場し、NPBジュニアも誕生した。
この予選最終日は背番号10の主将、巨人Jr.の鴨志田京も戻ってきてナインを引っ張ったが、吉川ウイングス(埼玉)に敗北。初回に先制されてペースをつかめなかったが、ベンチも選手も終始、落ち着いていた。突出した何人かに頼るというよりは総体的に鍛えられたチームで、保護者らも含めた一体感も印象的だった。
「今年は基本、全員がキャプテンのつもりでやってくれってことで来ましたので…神宮に連れて行ってあげたかったですけど、しょうがない。相手も強かったですね…」
そこで言葉に詰まった指揮官の頬を涙が伝った。夏の全国出場を逃して終わりではない。ただ勝つことだけが目的でもない。東京の老舗の学童チームの新たな興隆は、まだ始まったばかりだ。
